李承雨作家のインタビュー記事が掲載されました。

2月1日付け日経新聞夕刊に、作家李承雨(イ・スンウ)さんのインタビュー記事が掲載されましたので、ご紹介します。

現代韓国文学の旗手のひとり。神、自然、人間とは何か。家族の結びつきとは。韓国の日常を描いた文章の中に、普遍的な問いがひそむ。国や民族の垣根を越えた世界文学と評価され、英、独、仏など欧米各国での翻訳出版も多い。昨年、日本でも短編集「香港パク」(金順姫訳、講談社)が刊行された。
「人は現実に不満があるとき、未来を保証してくれそうな他人に、勝手に希望を託してしまう」。8本の短編では、そうした一見浅はかな人間の心理がいくつも描かれる。表題作も、救世主かペテン師か見分けのつかない男を巡る物語だ。香港から船が入港さえすれば鬱屈した日常から解放されると説く男が、劣悪な労働環境に悩む職場の同僚たちを次第に魅了していく。
1981年に作家デビュー。収録した短編を書いたのは91~93年だ。作品には「当時の社会の状況が反映している」という。韓国では民主化宣言、ソウル五輪を経て、90年代初めに初の文民政権が誕生した。「それまで抑圧されていた個人の欲望が噴出してくるのを目の当たりにした。小説を書く大きな転機になった」と振り返る。首相の死に疑問を持ち独自の調査を始める小説家を描いた「首相は死なない」は、作家が政治にどう向き合うのかという命題を追究したものだ。
59年、韓国全羅南道生まれ。大学ではキリスト教神学を学んだ。「人間への関心を観念的に拡張したような作風。叙情的ではないですね」と自己分析する。日本の作家では遠藤周作をよく読み、日韓中の作家交流にも積極的。「互いに作品をじっくり読むことで、東アジアの中に共通の文学性が生まれるのではないか」と期待する。