韓国出版文化産業振興院による推薦図書の紹介

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 桃の節句も過ぎ、あちらこちらから春の便りが届く季節になりました。
 今回は、韓国出版文化産業振興院から毎月発表される推薦図書の1月、2月の回から、いくつかの作品をご紹介します。

바느질하는 여자』김숨 (『針仕事をする女』 キム・スム)l9788932028057
  現代文学賞、李箱文学賞など、数々の文学賞を受賞してきた作家、キム・スムによる、ヌビ(韓国伝統のキルト)に一生を捧げた母、ジェスクと、彼女の娘たちの人生を描いた長編小説です。生きるため、娘たちを育てるためにヌビひと筋で生きてきた母。ひと針ひと針、修練と忍耐を要する作業の繰り返しで仕立てられた衣服には、それを仕立てたヌビ職人の思いが込められています。生まれたての赤ん坊の服から寿衣まで、着る者の幸せを願い仕立てられた衣服の美しさは、職人の、職人としての誇りや美しさにも似ています。生存のためにヌビ職人の道を選んだジェスクでしたが、娘はやがて、ヌビに没頭する母の眼光に、ただならぬ執着心のようなものを見出し、はっとします。

조선에 온 서양 물건들』강명관 (『朝鮮に渡来した西洋文物』 カン・ミョングァン)
 朝鮮後期にもたらされた眼鏡、望遠鏡、鏡、目覚まし時計、洋琴など、西洋文明を象徴する5つの物品の歴史と、それらが人々に受容されてゆく過程を描いた書籍です。5つの品々は、どれもが西洋の近代化を象徴するものでありながら、朝鮮国内での受け入れられ方は、それぞれ異なる様相を見せました。眼鏡と鏡は身分と階層に関係なく広く受容され、洋琴は朝鮮化の道をたどり、望遠鏡と目覚まし時計は、一部分の両班にのみ珍重される品物となりました。それらが最初に言及された記録とその後の記録をたどっていくことにより、朝鮮後期の人々が、科学、宗教など西洋の文物をどのように受け入れていったのか、また、当時の世界認識と科学に対する認識も知ることができる書籍です。

인류의 기원』이상희. 윤신영 (『人類の起源』 イ・サンヒ、ユン・シニョン)
 人類の化石を研究する古人類学者と科学専門記者が綴った、古人類学に関する最新の話題を紹介する書籍です。地球上に人類が誕生してから現在の姿に至るまで、人類は数々の「事件」をくぐり抜け生き延びてきました。数々の人種が姿を消したものの、2010年には、私たちの体内にもネアンデルタール人の遺伝子が数%残っているという説も明かされました。私たちの祖先は、いつ、どこに現れたのか? そんな人類の歴史から、「原始人は人食い人種だったのか?」「体じゅうを覆っていた毛は、いつなくなったのか?」「他の動物と異なり、なぜ人間だけ老齢期が延びたのか?」など、身近な疑問に対する答えまで、一般読者にも興味深い話題が盛り込まれています。最先端の科学技術により明らかになった新たな学説を紹介するとともに、これまでとは異なる角度からのアプローチも交え、読者の関心をかきたてます。

아빠 미안해하지 마세요!』홍나리 (『パパ、気にしないで!』 ホン・ナリ)
 足の不自由なパパと、パパが大好きな女の子の心あたたまる物語が描かれた絵本です。足が不自由なせいで娘と一緒に自転車にも乗れず、スケートも水泳もできないパパは、いつも罪悪感でいっぱいでした。けれど娘は言います。パパと公園でお花を見たり、砂浜で砂のお城を作ったりするのが大好きだ、と。子を思う親の思い、親としての素質が自分に不足しているのではないかという不安や後ろめたさを描くとともに、そんな親の思いを吹き飛ばすように、明るくたくましく育つ子どもの様子が生き生きと描かれた物語。ストーリーとともに、やわらかなタッチの明るいイラストも読者の心をほっこりあたためてくれそうです。

이상한 분실물 보관소』김영진 (『ふしぎなおとしもの預かり所』 キム・ヨンジン)l9791158360092
 おばあちゃんとの思い出がつまった大切なお人形をなくしてしまった女の子が、「おとしもの預かり所」で出会った人々との触れ合いを通して成長してゆく様子が描かれている絵本です。人形を探しに行ったはずなのに、そこで出会った、大切な「何か」を失くしてしまった人々に優しさを分け与える女の子。誰でも心の中に「失いたくない」「失ってはいけない」大切な記憶があるものですが、そんな記憶も歳月の流れとともに薄れてしまいます。けれど、たとえ忘れてしまったとしても、大好きな人と過ごした大切な時間、愛情いっぱいの大切な記憶は心の奥底で生き続け、誰もがそうした記憶の上に、新たな記憶を重ねながら成長しているのです。
 キム・ヨンジン作家による絵本『ママ、会社で私のこと考える?(原題:『엄마는 회사에서 내 생각해?』)は、『日本語で読みたい韓国の本―第4号』にも掲載されていますので、後日、改めて紹介いたします。