第6回『日本語で読みたい韓国の本ーおすすめ50選』説明会(イベントレポート)

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 第6回『日本語で読みたい韓国の本―おすすめ50選』の説明会を12月7日に開催しました。師走の多忙な時期にもかかわらず、多くの方がお越しくださり、韓国の本に対する関心の高さを窺うことができました。

 今年は、『ピンポン』(パク・ミンギュ著 斎藤真理子訳 白水社)をはじめ、晶文社の<韓国文学のオクリモノ>シリーズなど、たくさんの韓国の小説が翻訳、刊行されました。そこで、韓国文学がどのように受け止められているのか知りたく、特別講演として翻訳家であり児童文学研究家でもある金原瑞人さんに「ぼくの好きな韓国小説、ぼくの気になる韓国文学」を語っていただきました。 

 金原さんはできあがったばかりの「BOOKMARK」第10号をお持ちくださいました。第4号で『アンダー、サンダー、テンダー』(チョン・セラン著 吉川凪訳 クオン)などの韓国文学や台湾文学、チベット文学など英語圏以外の様々な翻訳文学を紹介してきた「BOOKMARK」について、「日本の翻訳界もまだまだ頑張っている」と熱く語っていらっしゃいました。

 中国映画が好きだった金原さんは、中国映画が下火になった後、重くて濃い韓国映画に夢中になったそうです。特に鬼才キム・ギドク監督の毒々しさが好きで「嘆きのピエタ」や、ヤン・イクチュン監督の「息もできない」などを学生にも勧めているとのことでした。第1回日本翻訳大賞を受賞した『カステラ』(パク・ミンギュ著 斎藤真理子訳 クレイン)もこの毒々しさを期待して読み始めたら、予想外の独特な抜け感があり、韓国文学のバリエーションの広がりと新しい流れに目を開かされる思いをし、翻訳大賞に推薦したと話してくださいました。

 絵本についても言及し、ペク・ヒナさんの『天女銭湯』(長谷川義史訳 ブロンズ新社)について、「一押しも二押しも多くて、読み手の胸を通り抜ける面白さがある」とのお話に、笑いながら頷く人が多くいました(ペク・ヒナさんの作品4冊が来年にブロンズ新社より刊行され、秋には来日イベントも開催される予定です)。

  小説に話を戻しますと、週刊読書人12月15日号に掲載予定の年末恒例アンケート特集「2017年の収穫(今年の収穫と思われる3冊)」で、金原さんは『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン著 きむ ふな訳 クオン)と『親愛なるミスタ崔 隣の国の友への手紙』(佐野洋子著 崔禎鎬著)を挙げているそうです(「うちの本が2冊もある!」と事務局長の金承福が喜びの声を上げていました)。『アオイガーデン』について、「キム・ギドクの世界に引き戻された。妥協のないグロテスクさと近未来のディストピアが描かれているけれど、決してファンタジーではなく、ここまで突き詰めて描かれると美しささえ感じる。毒にも何にもならない本が多い中、ここまで好き嫌いがはっきりする本も珍しい」とのことでした。刊行されたばかりの『殺人者の記憶法』(キム・ヨンハ著 吉川凪訳 クオン)についても語ってくださいました。翻訳された吉川凪さんも会場にいらっしゃいましたので、翻訳者としての見方、映画との違いもお話しいただきました。

 500冊目の翻訳書を刊行されたばかりである金原さんのさまざまな韓国の小説を読めることはとても嬉しいこと」という言葉を、K-BOOK振興会のスタッフとしてとてもありがたく思うと同時に、これからも韓国の良書を紹介できるよう努力しなければと身の引き締まる思いでした。 

 次に、<韓国文学のオクリモノ>シリーズの刊行が始まった晶文社の編集者松井智さんに、このシリーズを刊行するに至った経緯やコンセプトなどを語っていただきました。晶文社としては文学を刊行するのは久しぶりで、それが韓国文学になったのは、「軽く、しなやかで、新鮮さのある韓国文学」、「自由な息吹を感じる韓国文学」を紹介したかったからとのことでした。韓国語の堪能なベテラン編集者がソウルに赴き、各書店の店員に「今一番おすすめの小説」を聞いて回って、シリーズ6冊の作品を選んだのだそうです。「軽く、しなやか」とは言っても、シリーズ6冊の中には重厚な作品もあり、やはり韓国文学のバリエーションの豊かさを感じます。

 旧来の韓国文学のイメージが、真面目な顔をして語り合わなければならないような純文学であるのに対し、その鎖をほどいて自分たちらしい文学を作り出そうとしていて、だからといって力んでいるのではなく、しなやかに頑張っているパク・ミンギュさんのような作家を多く紹介したいと語ってくださいました。

 今後の<韓国文学のオクリモノ>の予定は、来年1月にファン・ジョンウンさんの『誰でもない』(斎藤真理子訳)が刊行されます。ファン・ジョンウンさんの作品は、河出書房新社からも3月に『야만적인 앨리스씨(仮邦題:野蛮なアリス)』が刊行される予定であり、4月上旬に著者来日イベントを開催する予定だそうです。どうぞご期待ください。 

 3番目に、昨年の説明会を機に絵本『いろのかけらのしま』を出版されたポプラ社の編集者小桜浩子さんと、翻訳者の生田美保さんに、本書の出会いから出版までを語っていただきました。絵も内容もよく、メッセージ性のある本書をどうしても出版したいと思われた小桜さんの「世の中にはいろいろなものがあることを子どもたちに知ってもらい、いろいろな選択肢の中から選んでほしい」という言葉に、多くの方々が強く同意されたことと思います。韓国で暮らしている生田さんは、6歳になる息子さんのブックファーストで本書と出会ったそうです。韓国、日本に関係なくどこの国の人にも本書を読んでもらいたいと思い、すぐに試訳を作られたそうで、この熱い思いが出版につながったのだと思いました。来年1月10日にはジュンク堂池袋本店にて、生物フォトジャーナリストの藤原幸一さんと生田さんによる刊行記念トークイベントが行われる予定です。 

 今回は、翻訳、出版に関する助成・支援プログラムも説明致しました。11月末に開催されたヨーロッパ文芸フェスティバルでも各国による日本での翻訳出版に対する様々な支援の話がありましたが、韓国でも様々な支援を行っています。主に韓国文学翻訳院や国際交流財団、大山文化財団などによるものですが、韓国文学翻訳院では翻訳費用や出版費用だけでなく、トークイベントやパンフレット作成などについても助成を行っています。例えば、先月行われたパク・ミンギュさん来日イベントのパンフレットや小冊子の作成、<韓国文学のオクリモノ>のパンフレットなどにも支援が出ています。韓国の本を翻訳、出版する環境は整っていると思いますので、ぜひご活用ください(ガイドブックに詳細な内容を掲載しています)。

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 今回のガイドブックでは、昨年から今年にかけて刊行された若手作家たちによる話題の小説やエッセイをはじめ、紀行文、人文書、絵本とジャンルも様々に50冊を紹介しています。紹介した書籍は、「ブックカフェ チェッコリ」でお手に取ってご覧いただけますので、ぜひ足をお運びください。勢いのある韓国の作家たちの作品にぜひ関心を持っていただけたらと思います。 

 K-BOOK振興会では、日本で韓国書籍の翻訳・出版を計画される出版社に、書籍の情報の提供および版権の仲介や翻訳者の仲介のお手伝いもしておりますので、お気軽にお問い合わせください。 

 本ガイドブックの制作に際しては、韓国出版文化産業振興院、韓国国際交流財団、韓国文学翻訳院ほか、多くの出版関係者からのご支援をいただきました。また、説明会開催にあたり、多くの方々のご支援、ご協力を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。    (文責:五十嵐真希)

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