釜山市で8月中旬、「2018 インディゴ・ユースブックフェア」という青少年向けの行事がありました。本を媒介とした交流や教育を主な目的に、2008年から隔年で開催されているもので、前回ご紹介した「インディゴ書院」が主管、公益法人「チョンセチョンセ」が主催。政府の教育部(日本の文部科学省に相当)や文化体育観光部、釜山市、釜山市教育庁(教育委員会に相当)といった公共機関の後援も受けていました。
これまで、「人+間」(2008)、「価値を再び問う」(10)、「共同善を目指して」(12)、「新しい世代の誕生」(14)、「貧しい社会、高貴な人生」(16)といったテーマを設定。6回目の今年は「人間という可能性」をテーマに、作家や評論家による講演、シンポジウム、討論会、フォーラム、映画上映会、ワークショップなどのイベントが2日間にわたって行われました。どのイベントも推薦図書を事前に読み、提示された質問について各自考えたうえで参加します。釜山だけでなく京畿道や済州島など遠方からの参加者もいたそうです。
「共感する人間」というサブテーマがつけられた「作家との対話」イベントには、小学生から大人まで200人近くの人が来ていました。登壇者はスウェーデン・ウプサラ大学の社会人類学者ブライアン・パーマーさんと、画家キム・ジョンスクさん。推薦図書は絵本『그 꿈들(その夢たち)』で、2003年のイラク戦争当時に韓国の反戦平和チームとしてイラク入りした童話作家パク・キボムさんが、現地で出会った子どもたちの将来の夢を綴り、キム・ジョンスクさんが絵を描きました。
スクリーンでキムさんの絵が映し出されるなか、パーマーさんは「他者の苦しみに共感するとはどういうことか」などについて通訳を介して講演し、キムさんも絵について説明しました。みな熱心に聞き入り、質疑応答の時間には多くの質問が出ました。「みんなが他者の苦しみに共感すれば、いつかユートピアが実現するのでしょうか」と問うた高校生くらいの女の子や、「先生にとって絵とは何ですか。どんな気持ちで絵を描いていますか」という難問でキムさんをうならせた小学6年生の男の子、流暢な英語でパーマーさんに直接質問した中学1年生の男の子など、大勢の注目のなか堂々と話す姿が印象的でした。このイベントは、過酷な現実に直面している他国の子どもたちの存在を知り、広い世界に目を向けて考えを巡らせる良い機会になったと思います。
『その夢たち』の掲載作品を含むキム・ジョンスクさんの油絵(原画)の展示会もありました。
会場では、今回のブックフェアの推薦図書60冊も販売。多くの人が手に取っていました。辺見庸『もの食う人びと』 ▽大江健三郎『読む人間』 ▽白取春彦『人生がうまくいく 哲学的思考術』 ▽岡潔『春宵十話』―の韓国語版もありました。
ブックフェアには他にも、米国の写真家クリス・ジョーダンさん ▽数々の児童文学賞を受賞した中国人作家の常新港さん ▽韓国の文学評論家イ・ヒョヌさん―が招かれ、それぞれフォーラムやシンポジウム、特別講義に登壇しました。映画上映会では、クリス・ジョーダンさんが、プラスチックなどの海洋ゴミが原因で命を落とすミッドウェー島のアホウドリに密着して制作したドキュメンタリー『ALBATROSS』が上映されました。(文/写真:牧野美加)