翻訳詩の朗読会、各地で盛況(韓国通信)

詩を掲載したパンフレット

韓国では最近、詩や小説の朗読会が増えてきているように感じます。これまでにも出版社がプロモーションの一環として行う単発の朗読会はありましたが、最近は独立書店や展示空間などで持続的に開かれるケースが増えているようです。韓国語の作品を韓国語で朗読するだけでなく、外国語に翻訳されたものを外国語で朗読するというイベントも行われています。韓国文学翻訳院主催の交差言語朗読会「訳:詩」がその一つです。韓国語の詩を外国語に翻訳し、作家と翻訳者(主に母語話者)がそれぞれ朗読するというもので、2017年は4回(スペイン語、英語、仏語、独語)、18年は2回(中国語、日本語)、いずれもソウルで開かれました。

今年はソウルだけでなく全国各地で、その地域で活動する詩人の詩を朗読するのが特徴です。全9回開かれる予定で、5月15日の仁川市(シン・ヒョンス詩人/中)、同31日のソウル市(ファン・インチャン/日)、6月7日の江原道麟蹄郡(クォン・ヒョクソ/独)に続いて、7月6日に済州市で今年4回目の「訳:詩」イベントが開かれました。翻訳者として参加してきましたのでご紹介します。

会場となった済州市内のブックカフェには20~30人の聴衆が集まりました。済州あるいは釜山で活動する詩人や作家など、文芸家もたくさん参加していました。朗読するのは済州の詩人イ・ジョンヒョンさんの詩10篇です。イさんは、1948~54年にかけて数万人の島民が虐殺された「済州島4・3事件」に関する詩を多く発表しています。特に、「風の家」は、事件から70年の節目を迎えた昨年の犠牲者追悼式で、歌手のイ・ヒョリさんが朗読したことで大きな注目を集めた詩です。今回の10篇の中には、「風の家」をはじめとする4・3事件に関するものや、300人以上の死者・行方不明者を出したセウォル号沈没事故(2014年)をテーマとした「春の海」など、痛ましい出来事の犠牲者を悼むものが多く含まれていました。

スクリーンに韓国語の詩と日本語訳の詩が映し出され、静かなBGMが流れる中、文芸評論家の司会によって会は進められました。朗読にはイさんや2人の日本人翻訳者だけなく、一部の聴衆も加わりました。会場で急に指名されたにもかかわらず、皆さん堂々と、感情を込めて朗読している姿を見て、韓国では詩がとても身近なものであることをあらためて感じました。さまざまな人の朗読を聴くのは、詩人、翻訳者、聴衆のそれぞれにとって貴重な機会になったと思います。朗読の合間には司会者がイさんや翻訳者に対し、詩に対する思いや翻訳するうえで苦労した点などを質問していて、詩の理解を深めるのに役立ったと思います。済州在住のピアニストによるアコーディオンの演奏も披露されました。

翻訳者による朗読

朗読するイ・ジョンヒョン詩人

 

会の最後に、4・3事件当時、済州に駐屯していた本土の陸軍大尉を父親に、済州島民を母親に持つイさんの心の葛藤を描いた詩「父」を、イさんご自身が朗読されました。物心つく前に亡くなったという父親への複雑な思いは、ご本人の声で聴くと、より強く胸に迫ってくるようでした。

今年の朗読会はこのあと、7月26日のソウル市(ユ・ゲヨン/仏)、9月6日の大田市(ユク・クンサン/英)、10月11日の全州市(ポク・ヒョグン/仏)、11月1日の浦項市(クォン・ソニ/露)、同2日の釜山市(キム・スウ/西)と、順次開かれる予定です。

最後に、済州での朗読会で朗読した詩を1篇、関係者の許可を得たうえでご紹介します。

아버지

そろそろ赦すときがきた
もう憎むのはよせ
よくよく考えたら 息子が成長して父親となり
子や孫が初夏の柳の枝葉のように広がりゆく喜びを
味わえなかったのだから気の毒な男じゃないか
やっと二歳になったお前をおいて
若死にしたお前の親父はどんなに無念だったろう

憎んだことはない ただ恨んだことは何度かあったし
これまでの人生で会いたいと思うことも時々あったと
そんなふうに言えば いい息子になれるのかもしれないが
写真一枚残さずに逝ったあなたのせいで
長い年月 人生とうまく向き合えずにいた

私の体に染みついた些細な癖まであなたにそっくりだというのに
そろそろ自分を憎むのをやめるときがきた

(文・写真/牧野美加)

詩を掲載したパンフレット