木のハンコ

済州島4.3事件をご存じでしょうか。1948年4月3日、済州島で、アメリカ軍政下の南朝鮮単独選挙に反発した民衆蜂起が、アメリカ軍、警察、右翼などによって弾圧され、約3万人もの島民が犠牲になったと言われている事件です。『マンヒのいえ』(みせ けい訳 セーラー出版)で有名なクォン・ユンドク作家がこの事件をテーマに描いた絵本『木のハンコ』を紹介します。少女シリを通して、事件当時の様子と平和への願いがやさしいタッチで描かれています。

原題:나무 도장
出版日:2016年2月29日
発行元:平和を希む本(평화를품은책)
ISBN-13:9791185928081
頁数:60
判型:256×288

41 木のハンコ

●概略 

日本の植民地支配が終わり、明るい未来を夢見た朝鮮半島の人々の願いもむなしく、米ソの思惑により南北に分断されようとしていた1948年。本書は1948年4月3日から朝鮮戦争休戦後の54年9月21日まで、5年にわたる「済州島4・3事件」をテーマにした物語である。『ハンコ』は、その虐殺の現場で生き残った一人の少女の話を通じて「済州4・3」の悲しい歴史を簡潔な文章と一篇の映画のような絵で振り返る、本書は時代に翻弄され犠牲となった方々の霊魂に捧げるレクイエムでもある。

●あらすじ

シリの母は古びたハンコを宝物のように大切にしていた。ある斎祀の日、母は、大好きな叔父が来るのを今か今かと待っていたシリを山麓のとある小さな洞窟に連れて行く。

母は、洞窟のあちこちに散らばる食器の破片を怪訝そうに眺めるシリに、「済州島4・3事件」について語り始める。島民の左傾化を懸念したアメリカが島に軍を派遣し、さらには、警察・軍隊や西北青年会まで動員して過酷な「赤狩り」を行い、自由・平等を素朴に夢見ていた島民の多くが裁判にかけられることなく「アカ」のレッテルを貼られたまま無残に殺された。

母の家族もその犠牲となったが、母だけが警察官だった叔父のお陰で生き残った。シリの実母は幼いシリを連れて洞窟に隠れているのを叔父たちに見つかり、洞窟内にいた他の人々とともに銃殺されたが、実母のチマに守られて生き残ったシリを叔父と母が夜更けにこっそり連れ帰った。

そのときのシリはハンコを握りしめていたこと、今日は亡き実母の斎祀の日であることを母は初めて打ち明ける。シリは母から手渡された古びたハンコがまるで実母の化身のように思えてじっと見入っていたが、やがて暗い洞窟を出ると、斎祀の準備をするために母と一緒に足早に家路につく。

 

 

●日本でのアピールポイント

済州島は韓国の最南端に位置するリゾート地というイメージが強く、ここを訪れる日本人も多いが、この地で約60年前に海が島民の血で赤く染まったと言われる「済州島4・3事件」があったことを知る人は少ない。戦後の米ソの思惑に翻弄され、遂には大国の代理戦争と言われる朝鮮戦争が勃発し、泥沼化する中で、主義主張に関係なく素朴に明るい未来を思い描いていた島民のうち6万人が虐殺され、村の7割が焼き払われたと言われる韓国の悲劇は、常に戦火が絶えず、難民問題に揺れる現代社会にも共通する問題を内包している。本書は、過去の悲惨な出来事を知り、真の平和や自由について、今を生きる大人と子供がともに考え、話し合う場を提供する珠玉の作品である。わが国が“いつか来た道”に引き返すさないことを願う多くの方々にぜひご一読いただきたい。

 

著者:クォン・ユンドク(권윤덕)

1960年に京畿道烏山市の生まれ。ソウル女子大学校食品化学科と弘益大学校産業美術大学院の広告デザイン科を卒業。美術を通じて社会運動に参加してきたが、1995年に最初の絵本『マニエのお家』を出版して、絵本作家の道に入った。その後も童話作家として多くの作品を発表したが、1998年からは山水画や工筆画、仏画などを学び、古来の絵の美しさを絵本に再現することにも取り組んでいる。2010年韓国出版文化賞著作賞、CJ絵本賞、2013年日本軍“慰安婦”遺功女性家族部長賞、2014年「今年の女性文化人賞‐青江文化賞」を受賞。邦訳書に『マンヒのいえ』(みせ けい訳 セーラー出版)がある。

2018-04-03 (火)