『ソウルは、深い』(チョン・ウヨン著)

ソウルは深い
原題
서울은 깊다
出版日
2008年5月2日
発行元
トルペゲ(돌베개)
ISBN-13
9788971993095
頁数
391
判型
A5

グルメやショッピングだけではないソウルの奥深い魅力を再発見してみませんか。歴史学者のチョン・ウヨンが、言葉、風俗、空間など様々な視点からソウルを見つめることで、いにしえから連綿と受け継がれてきたソウルの姿を生き生きと浮かび上がらせ、豊富な魅力を伝える『ソウルは深い』を紹介します。

●概略 

本書は、著者のチョン・ウヨンが歴史学者としての立場から、「ソウル」という言葉のルーツを探り、都市ソウルについて学術的、人文学的に批評を試みたものである。既存のソウルに対する常識や仮説を数多くの資料から読み取り、いにしえから連綿と受け継がれてきたソウルの姿を生き生きと浮かび上がらせる。例えば、「トンケ(駄犬)」「タンコ ジ(土地乞食)」「ムレベ(無頼輩)」「カクチェンギ(けちんぼ、しみった れ)」などの言葉の由来から、ソウルの風俗や文化を生き生きと甦らせつつ、清渓川、鍾路、徳寿宮の噴水台のような、都市 の象徴の変化に込められた意味を大胆に推理し、あるいはまた「ムル チェンイ(水売り・水運び業者)」や「ポクトクバン(不動産屋)」のような 近現代的な日常の風景にも視線を向け、都市ソウルの豊富な魅力を伝える。

 

●主なあらすじ

1・2章では、「ソウル」本来の意味を問う。「ソウル」とは、いわく「そ びえ立つ勢力・一族」、すなわち神に最も近い都市、最も神聖な空間 であり、政治、文化や芸術の中心地であると推理する。その一方で、
「生産」の空間というより周辺の田園地帯からもたらされた生産物を「消費」する空間でもあるとする。 3・4章では、朝鮮王朝初期にソウ ルの枠組みを構想した李芳遠の景福宮計画からソウルという空間に散りばめられた歴史の痕跡や人びとの営みに触れる。「里」は貴く「洞」は 賤しいとする常識の変化、路地裏から見たソウルの生態的・社会的 変化を5章で追跡する。豊かな古参の家と一般庶民の家が共存してい たかつての路地コミュニティを記憶し、「似たもの同士が寄り集まって 住む」ことが一般化している現代ソウルの住宅環境について省察する。 かつての歴史、生態系や環境の変化、または風俗の変化と結びつける記述が6〜8章にある。朝鮮時代から近代に至る商業の発展過程で両極化あるいは階層化していったソウルの人びとの暮らしぶ りが9〜15章にかけて描写されている。16章では、鍾路の歴史をソウ ルの通信や交通手段の変化から検証する。朝鮮王朝時代から大韓帝 国末を経て1960年代まで、ソウルの中心地として機能していた鍾路の華 やかな時代が路面電車の廃止とともに幕を下ろす。17章では、高宗の道路整備、慶運宮の整備に関連する逸話が、18章では、古来神聖な 形状とされた「八角」が、李承晩時代を経て世俗化されていった事情などが明かされる。近代的空間としてのソウルあるいは京城で人々が近 代化をいかに受容し、いかに導き、どのような痕跡を残したか。19章 では、人々が西暦と曜日制や24時制に馴染んでいく過程について、20・21章では、病院・写真という近代的生活に欠かせない装置について 考察する。22・26章では、ソウルに近代的な意味においての「公衆」が 誕生する過程が語られる。市場の歴史を凝縮した23章では、17世紀 以降ソウルの生活を規定していた兵農一致・兵商一致制度を俯瞰し ている。そのほか、24・25・27・28章では、記憶の中で薄れていった 水売り・運び業者や不動産屋などの生業、 臥龍廟、徳寿宮の石垣道など歴史的な事物についても振り返る。

●日本でのアピールポイント

著者の歴史学者チョン・ウヨンが勤務したソウル市立大学ソウ ル学研究所では、「ソウル遷都600年」(1994年)を契機に、ソウルの「ブ ランド価値」を高めようという構想が作られた。そこで彼は、 歴史・文化関連事業に関わりながら、都市工学、経済学、社会学、行政学・建築学・土木学・語学・文学・ 文化人類学など多岐に亘る分野の学者たちと討論を重ねる。その過程でソウルの歴史について、ソウル研究所のウェブマガジンに連載を依頼され書きためたものが本書であり、単なる歴史書にとどまらず、 歴史や人類学などを通して、空間批評や文学批評などを縦横無尽 にちりばめた都市ソウルに関するいわば人文学的報告書となっている。 韓国・朝鮮の人にとって過去を「痛み」なしにはふりかえることはできず、 本書でも決して避けて通ってはいないが、歴史にとどまらない多角的な方面から見ることによって、古から連綿と受け継がれてきた都市ソウルの姿が生き生きと浮かびあがる。豊富に収載されている貴重な写真や挿絵も理解の助けとなる。全28テーマに 分かれていて、興味の湧くところから読むのもよいだろう。歴史の縦糸や横糸が何層にも織りなす『ソウルは深い』と実感させる内容だ。

著者:チョン・ウヨン(전우용)
ソウル大学校国史学科卒業。同大学院にて「19世紀から20世紀初めの韓日会社 研究」で博士学位を取得。ソウル大学校、カトリック大学校、淑明大学校、ソウ ル市立大学校付属ソウル学研究所常任研究員を経て、2008年現在、ソウル大 学校病院「病院歴史文化センター」教授として在職中。主要論文として「鍾路と本 町:植民都市京城のふたつの顔」「植民地都市のイメージと文化現象」などがあり、 著書に『ソウル事業史』(共著)、『清渓川:時間、場所、人』(共著)、『ソウル20世 紀:100年の写真記録』(共著)などがある。文化財専門委員としても活動している。