『続けてみます』(ファン・ジョンウン著)

原題:계속해보겠습니다
出版日:2014年11月5日
発行元:チャンビ(창비)
ISBN-13:9788936434151
頁数:228
判型:153×224mm
分野:小説

続けてみます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●概略 

人気の若手女性作家、ファン・ジョンウンの小説は、厳しい現実を描きながらも、どこかファンタジックで優しく心にしみてくる。この長編もそんな小説世界が人気を集め、刷を重ねている。もともと文芸誌に連載されていた作品だが、1年以上かけて大幅に改稿され、深みを増して新たなタイトルの作品として刊行された。ソラ、ナナ、ナギの三人の主人公の物語で、目次のとおり、章ごとにソラ、ナナ、ナギ、そしてまたナナへと語り手が変わっていく。主にナナが身ごもった子どもをめぐって話が展開されるが、三人の関係性や生き方に、生きることはどういうことか考えさせられ、生きていく力をもらえる。

連載当時はこの三人の名前「ソラナナナギ」がそのまま小説のタイトルになっていたが、新たなタイトルは、話を「続けます」という意味と、三人がそれぞれの人生を「続けていきます」という意志の表れにもなっている。この物語の先は読者に委ねられているとも受け取れる。

●目次

ソラ(小蘿)/ナナ(娜娜)/ナギ(鏍其)/ナナ(娜娜)

●あらすじ

二歳違いの姉妹のソラとナナ。幼いころ、二人は父親のクムジュを工場の事故で亡くし、母親のエジャと三人で、一部屋を壁で仕切った半地下の家に引っ越す。そこで隣に住むナギという少年に出会うが、ソラとナナはナギの母親にご飯を食べさせてもらい、世話してもらうことが多かった。なぜならエジャは無気力で子育てを放棄したかのように世話を見てくれることがなかったから。今は、エジャは老人ホームに入っている。

ある日、ソラが見た夢を妊娠の予知夢ではないかというナナに、ソラはナナ自身が妊娠したのではないかと疑いをもつ。なかなか問いただせずにいるソラ。やはりナナは妊娠していたとようやく知るが、自分の母親を思うと子どもをもつことは不安でしかなく、ナナが身ごもったことに対しても嫌だと答えてしまう。それから二人は言葉を交わさなくなり、ぎこちない関係が続いている。

ナナはお腹の子の父親であるモセの家にあいさつに行く。無口なモセと彼の両親の態度に居心地の悪さを感じ、さらに、トイレがあるのに毎回尿瓶に用を足し、妻に始末をさせているモセの父、それをおかしいと思わず、夫婦だから当たり前、家族なんだから、というモセの感覚に強い違和感を覚える。ナナは冷戦状態だったソラをモギョクタン(銭湯)に誘い、その違和感を訴える。

その後、老人ホームにいるエジャをモセに紹介するが、エジャのことは両親に秘密にするというモセに、とうとうナナは、あなたと結婚するつもりはない、家族にはなれない、と告げる。片親などありえないと信じるモセは、その後もしつこくナナに付きまとう。

 一方、ナギにはどうしても気になり、長いことずっと忘れることができずにいる中学の同級生がいた。同姓同士の友情以上の複雑な感情を抱いていた彼とは、大人になってから友人の葬式で再会し、後に日本で暮らしていたナギの元を突然訪ねてきたことがあったが、そのときの出来事があって以来、彼が生きているのか死んでいるのかもわからず、どちらを望んでいるのかも、ナギ自身はっきりわからなかった。

 最近、ナナもソラも仕事帰りに毎日のようにナギの店に立ち寄っている。ナギはナナがずっと自分を慕っていることに気づいている。ナナは勤め先で女性たちが片親を批判する話を聞いて、片親で育つことになる自分のお腹の子を心配しているが、ソラは、自分もナナもナギも片親で育ったけれど、ちゃんとここまで育ったじゃないと励ます。エジャは今でも夜になると電話をかけてきて、意味あることなど何もない、などと諦観したような言葉をつぶやいてくる。ナナはそれに同意しつつも、誰もが世界から見たら無意味な存在かもしれないけれど、だから大切ではない、ということではないと考えている。

 ●日本でのアピールポイント

育児放棄をした母親、そんな母親の元で育ち、結婚や出産には希望より不安が先だつ姉妹。登場人物は、みんな何かが欠けた人たちだが、いろいろな価値観が許されてもいいじゃないかと静かに語る。読者は押し付けられた社会の価値観から自由になり、彼らの話にいつのまにか耳を傾け、救われていることに気づくだろう。シングルマザーでの出産を選択しなければならない葛藤や世間体、家族とは何なのかということを考えさせられるテーマでありながら、ささやかな感情に寄り添ってくれる、こんなにも繊細な韓国の小説があることを日本の読者にも知ってほしい。

著者:ファン・ジョンウン(황정은)

1976年、ソウル生まれ。2005年に京郷新聞の新春文芸で登壇。2010年『百の影』で韓国日報文学賞、2012年『パ氏の入門』で申東曄創作賞を受賞、2014年短編「誰が」(『誰でもない』に収載)で第15回李孝石文学賞、2015年『続けてみます』で第23回大山文学賞など、数々の文学賞を受賞し、作品を発表するごとに文壇の注目を浴びてきた。邦訳作品に『誰でもない』(斎藤真理子訳 晶文社)、『野蛮なアリスさん』(斎藤真理子訳 河出書房新社)がある。

 

2019-01-09 (水)