YA小説『ぼくの人生のスプリングキャンプ』(チョン・ユジョン著)

原題:내 인생의 스프링 캠프
出版日: 2007年7月01日
発行元:ピリョンソ( 비룡소)
ISBN-13:9788949120768
ページ数: 394
版型:148 × 210 mm
分野:YA小説

ぼくの人生のスプリングキャンプ

 

 

 

 

 

 

 

 

●概略

 ある日突然、危険な任務を果たさなければならなくなった少年少女によるハチャメチャ旅行記。スピード感のある文体とユーモアに富んだ話術で、10代のさわやかな初恋や多感な年頃の成長過程を軽やかに語り、読む者をひきつける。世界青少年文学賞の第1回当選作品。

●主な登場人物

キム·ジュノ:主人公で語り手の中学1年生。親友ギュファンが入院したために、学生運動で指名手配中の彼の兄に必要なものを渡す任務を引き受ける。
ムン·ギュファン:ジュノの幼馴なじみであり、同じ中学校に通う無二の親友。ドーベルマンに追われて自転車ごと川に転落し入院することになる。
ムン·ジュファン:ギュファンの兄。学生運動の活動家で全国に指名手配される。国外に逃亡するが、帰国後に再び逮捕される。ジュノたちのひそかなヒーロー。
チャ·スンジュ:マッコリ醸造場を経営する家の息子。二人の兄が不慮の死をとげたために、母親が過保護となり山寺に預けられる。きびしい寺の生活に耐えきれず脱走し、ジュノの旅に加わるが道中でさまざまなトラブルを起こす。
パク·チョンア:粗暴な父のもとから何とか逃れたいが、夫の虐待で精神を病むようになった母親を置いていくことができない女の子。父の放ったドーベルマンのルーズベルトの追跡をかわそうとトラックに乗りこみ、ジュノたちの旅に同行する羽目になる。
謎の老人(パク·ヤン ) :もと漁夫だったが光州事件で最愛の養女を亡くしてから各地を放浪した末に、ジュノたちが住む町の精神病院に収容されていた老人。ある日病院を脱走してジュノたちの一行に加わるが、困難な旅の道案内をしながら少年たちの旅の成功を導く。

●あらすじ

真夜中の招かれざる客人たち
1986年の夏、中学2年生のジュノは、親友ギュファンの頼みで全羅南道ムアンまで秘密の任務を遂行する旅に出る。それは学生運動の活動家である彼の兄、ジュファンに、逃走に必要な書類と資金を渡すという危険なものだった。
同級生スンジュの家のマッコリ工場から真夜中に出発する配送トラックに潜りこむという計画は、思いもよらないハプニングの連続で狂いだす。偶然同行することになったのは、悪辣で粗暴な父のもとを脱走したチョンア、寺からの脱走を図るスンジュ、そして正体不明の老人、父の命令で逃亡するチョンアを追いかけてきた獰猛なドーベルマンのルーズベルト。4人と一匹がトラックの荷台に身を潜めて南の地をめざした。

長い一日
目的地のムアンに着く前にトラックから飛び降りなくてはならなくなった一行は、徒歩を強いられる。猛犬ルーズベルトが、行く先々で騒動を起こしたために、汽車にもバスにも乗れなくなってしまったからだった。彼らの行動に不審を抱いたトラックの運転手や警察官たちの目を避けるため、見知らぬ町を通りすぎ、人気のない道を選んで歩きつづける少年たち。道すがら、母親にむりやり山寺にあずけられることになったスンジュの苦悩、離れ島で出会った孤児の少女を養女として育てようとした老人の過去、ジュノの父親が光州民主化闘争に連座して行方不明になった事件など、それぞれが心に抱える傷と過去が少しずつ明らかになっていく。途中、一夜の宿を求めて侵入した田舎の小学校で、チョンアの妄想に悩まされたジュノは一行からの脱出を試みるが、チョンアの身が気になって再び皆のもとに引きかえしていく。

果てしなく遠い海
老人の記憶を頼りに目的地に向かう近道をたどると、山中にスモモの林に囲まれ、山羊やガチョウを飼育する農場が現れる。牧草地を横切って進もうとする4人の前に、突然、山羊の群れが襲いかかってきた。難を逃れようとガチョウの飼育舎に飛びこむと、今度はガチョウたちに追いかけまわされ、農場の関係者に警察に引き渡されそうになる。農場の仕事を手伝うことを条件に危ういところを切りぬけた少年たちは、ようやく山を越え、ギュファンの兄の行方を捜索する警察の検問もくぐり抜け、風雨の吹きあれる山道を海辺に向かって歩きつづけた。途中スンジュが食堂で自分たちの失踪を知らせるラジオニュースを聞いて驚き、水とまちがえて焼酎を飲んだために気絶するという事件も起きたが、目的地はもう目の前に近づいていた。

秘密
ジュノたちのヒーロー、ジュファンが無人島に潜伏していることを知った少年たちは、島を目指すことにする。近づく台風の影響で暴風雨の吹き荒れる海を出港した少年たちは、船のなかで老人の過去についてくわしい話を聞く。老人は漁師をしていたが、孤児の少女を引きとって養女にした。だが少女の視力が日に日に失われていくので光州の大学病院に連れていくと、彼女が不治の病にかかっているという診断を受けた。その日の光州市内は、デモをする学生、市民たちと軍人たちが衝突し、戦場と化していた。逃げまどう市民たちに向かって無差別に発砲された銃弾を受けて、少女もそのまま帰らぬ人になったという。
荒れくるう海を果敢に突き進んだ小さな船はやがて無人島にたどり着き、一行はついにジュファンとの再会をはたした。だが目的達成の喜びもつかのま、台風が去って再び警察の捜索が始まる前に、ジュファンを安全な場所に移さなくてはならなかった。
まだ波の静まらない海に、老人が操縦する小船がジュファンを乗せて出航した。皆はこれまでの旅の試練の数々を思い浮かべながら、二人の旅の無事を祈るしかなかった。そのとき、巨大な鯨の群れが海上に現れ、水しぶきを上げた。まるで未来を語る夢の使者のように輝いて見えた。

●日本でのアピールポイント

「1986年8月14日の正午の空を覚えている……」という書き出しではじまるこの小説の主人公は中学2年生のジュノという少年だ。この時代は軍事政権の末期で、ギュファンの兄の逃亡生活や一行を追跡する警察の動きとつながり、やがて市民、学生たちの行動は、長くつづいた独裁政治に終止符を打とうとする希望の夜明けを予感させる。だがその淵源はジユノの父親の失踪、老人の養女があえなく命を落とす悲劇の日々、80年5月の光州事件にさかのぼり、悲劇的な過去の記憶を呼びさます。
こう前置きすると重く深刻なテーマを描いているように思うかもしれないが、物語の展開は軽やかかつスピーディ、思わず緊張感から手に汗にぎる冒険談として進んでいく。少年たちは困難を一つずつ乗り越えながら、心に抱えた重荷を減らしていく。反発しあっていた者どうしに友情が芽生え、淡い初恋のときめきもコミカルに描かれる。
ジュノの語りには毒舌やユーモアが頻繁に盛りこまれており、絶望的な状況さえ希望に変えてしまう、魔法の杖のような力を発揮する。「青少年文学賞」の受賞作品でありながら韓国現代史の重要な転換期を背景としており、韓国社会の深い傷痕にも思いをめぐらせる。まさに韓国現代文学の真骨頂とも言える作品となっている。

著者:チョン・ユジョン(정유정 )

韓国全羅南道咸平生まれ。2007年、『ぼくの人生のスプリングキャンプ』で第1回世界青少年文学賞、2009年に『私の心臓を撃て』で第5回世界文学賞を受賞する。2013年には、ソウル近郊の都市を舞台にしたバイオサスペンス小説『28』も刊行し、ベストセラーを記録。『七年の夜』は12か国、『種の起源』は19か国で翻訳、出版され、いずれも好評を博している。

2019-03-03 (日)