葵のようなあなた

新婚の妻を失ったり、労働組合を組織したため教壇を追われ、10年後に復職するも病で再び教壇を離れざるを得なくなったり、数々の苦難を経ながら詩作を続けている詩人都鍾煥(ト・ジョンファン)。韓国を代表する詩人のひとりです。強靱な意志を思わせる真っ直ぐな言葉の中にもやわらかさと美しさのある彼の詩は、世代を超えて人気を博しています。詩集に『고두미 마을에서(コドゥミ村で)』、『접시꽃 당신(葵のようなあなた)』、『부드러운 직선 (やわらかい直線)』などが、エッセイ集に『꽃은 젖어도 향기는 젖지 않는다(花はぬれても香りはぬれない)』などがあります。邦訳作品として『葵のようなあたな ほか(韓国現代文学選集』(吉川凪訳 トランスビュー) をご紹介します。

 

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とうもろこしの葉に雨粒が落ちます
今日もまた一日を永らえました
落ち葉散り北風の吹くまで
私たちに残された日々は
ほんとうに短いのです
朝 枕もとにごっそり落ちる髪のように
命はあなたの体から抜け落ちてゆきます
種が実を結ぶまでには
まだずいぶん待たねばならず
あなたと私が耕すはずの広い荒れ地も
手つかずのままなのに
畦道にはびこったヒメムカシヨモギと雑草の傍らに
しばし呆然としゃがみこみ また立ち上がります
薬すら思うように買えない
ぼろぼろの所帯を共にやりくりしながら
あなたは虫一匹殺せず
一度も意地悪な顔をしないで暮らそうとしていました
それなのに あなたと私が受け入れなければならない
残された日々 空は
際限もなく押し寄せる黒い雲に満ちています
初めは葵の花のようなあなたを思い
崩れる壁を抱きしめるみたいに
手に負えない体熱に慄いていました
しかしこれが 私たちにとって最も良かった頃と同じように
恥ずかしくない生き方をしろという
最後の仰せであることは分かっています
私たちが捨てられないでいた
何ほどのものでもない矜持だの栄誉や恥辱といったものまでも
今はためらいもなく捨てて
もっとつらく悲しい人に
自分の心のすべてを与えることのできる日々が
短くなったことに苦しむべきなのです
残れされた日はほんとうに短いのですが
その一日一日を最後だと思って暮らす道は
膿み腐った傷の中にあるだけの力を
すべて出しつくして立ち向かう道なのです
もっと大きな痛みを抱えて死にゆく人々が
私たちの周りにはいつでもたくさんいるというのに
自分ひとり肉体の絶望と病に倒れることが悲しいのだと
思わねばなりません
オンドルの床に敷かれた油紙のように色あせてゆくむくんだ顔を見ていると
とても口には出せないけれど
もし体に最後まで健康な所があったなら
そんなものでさえ必要としている人に
そっくりあげてから行きましょう
肉体のどの部分でもこころよく切り取ってあげられる人生を
私も生きたいと思います
とうもろこしの葉をたたく雨音が大きくなります
やがてまた一つの夜が闇の中に消えるけれど
この闇が終わり新しい夜明けの来る瞬間まで
私はあなたの手を握ってずっとそばにいます