ピンポン

 第1回日本翻訳大賞受賞作品『カステラ』(ヒョン・ジェフン訳 斎藤真理子訳 クレイン)の著者パク・ミンギュさんと翻訳家斎藤真理子さんコンビによる傑作長編小説『ピンポン』(白水社)。チスにいつも殴られ、いじめられている中学2年生の僕は「釘」とあだ名をつけられ、同じくいじめの対象になっている友人は「モアイ」と言われています。ピンポンのラリーをすることで、会話と思考を続けることを覚えていく釘とモアイを中心に、大多数の無意識の加害、集団心理の怖さを奇想天外な物語で語っていきます。読み終わってから、目次の前頁にある2行「安心して。安心してもいいんだよ。」を改めて読むと、著者がこの小説に込めた思いが強く胸に迫ってきます。YA小説ではありませんが、大人が全く出てこない点も本書の魅力です。
 韓国だけでなく、日本はもちろん世界中で通じるこの物語は、日経新聞や読売新聞、西日本新聞、週刊新潮などなど各書評で絶賛されています。
 書評の一部を紹介します。

いじめと集団の悪を描いた東アジア文学の最先端 都甲幸治(翻訳家・早稲田大学教授)(週刊新潮)

ジュースポイントの人類にささげる本 小国貴司(ブックス青いカバ店主)(WEBちくま)

無関心で加害者となる絶望 吉川凪(翻訳家)

日経新聞夕刊 – 目利きが選ぶ3冊(スポーツライター:藤島 大)

尚、この秋にはパク・ミンギュさんの来日トークイベントも企画されています。
11月17日(金)東京(神保町の予定)
11月19日(日)京都(恵文社一乗寺店)
主催:晶文社ほか

 詳細は追ってお知らせします。みなさま、ぜひお越しください。

『ピンポン』
 だからどうだっていうのだ。誰かがいじめにあっても、自殺しても、誰かが殺されたり失踪しても-実際のところそれが人類の反応なんだ。六〇億だもん。人類という全体が個人を見守ろうにも、個人という固体が多すぎる。ヘンだけどさ-個人って人類より絶対多いし、多様なんだ。僕はそう思う。一人の人間はだから、人類とは明らかに全く違う生物だ、かけ離れた種だ。だって、誰も自分のことを人類に通報することはできない。でき、ない、んだ、ピンク色のうどんみたいなものが肛門をしょっちゅう出入りしてるなんて通報は。そんな理由で頭のキレた人間に、肛門から釘を打ち込まれるみたいにして殴られながら暮らしてるってことを。実はそんな理由で、個人が世界から排除されてるってことを。

 のけものじゃない、なきものにされてるんだ

 原っぱにむかって歩きながら僕はつぶやいた。何?モアイが聞いた。いじめにあうってことはさ・・・・・・はじかれてるんじゃない、取り除かれてるってことなんだ。みんなから?ううん、人類にだよ。生きていくって、ほんとは、人類から取りはずされていることなんだよね。むかなきゃいけない皮みたいにさ。みんなむかれちゃうのが怖くて、人類によく思われようとしてるんだ。多数のふりするってことは、人類の皮にのめり込んで肉に入ろうとすることだろう。だったらどうなんだろう、とモアイが言った。それはそうだけどね、と僕もうなずいた。斜面を下りていくと、-台風に見舞われた後の-きれいに垢を落とした人類の広い背中みたいなものが広がっていた。原っぱだ。(53頁から54頁)

ピンポン

表紙のイラストはパク・ミンギュさんが描いたものです。