●本書の概略
法医学者である著者は事件・事故などで亡くなった多くの人々に長年向き合い、ソウル大学で「死の科学的理解」という講義をおこなった。本書はその内容を再構成してまとめたものである。
第1部では、著者が法医学の道に入ったきっかけや法医学者の仕事を紹介し、実際の事件などで手がけた解剖事例をいくつか紹介することで、死が私たちの生の裏側にいつも存在していることを語る。
第2部では、生命の始まりと死の定義、死生観の変遷、死と宗教のかかわり、死因というものを科学的に説明し、脳死、尊厳死、安楽死、自殺など現代社会が直面する課題や著者の考え方を語る。
第3部では、死を予感して向き合う準備をした人の遺書も紹介する。技術の発達によって2045年にやって来ると言われている「不死」の時代に向け、生の最後の瞬間としての死を、生きている時にきちんと準備し、生の価値を高めることの大切さを説く。
●目次
この本を読む前に
はじめに
第1部 死んでから会える男
第2部 私たちはなぜ死ぬのか
第3部 死を学ぶべき理由
おわりに
参考文献
●日本でのアピールポイント
本のタイトルはやや猟奇的だが、法医学者という著者の経験をもとに、だれもが必ず迎える死というテーマにまっすぐ向き合い、読者に対して新しい視点を抵抗感なく与えてくれる。
法医学者として関わった仕事の事例紹介から始まり、医学的な解説が細かいので、一般人に向けた法医学の解説書なのかと思いきや、人類の歴史における死生観の変遷や宗教との関係にも話がおよび、読み進むにつれてどんどん引き込まれていく。医学が進歩したことで新たに生まれた脳死や尊厳死の問題、現代社会が抱える深刻な自殺の現状や対策など、日本や他の国と比較しながら具体的な数字をあげて解説しているのでとてもわかりやすい。
本書に書かれた内容は、超高齢化社会を迎えた日本の問題としても、ほぼそのままあてはめることができる。ともするとタブー視しがちな死というテーマは、韓国も日本も関係なく、避けてはいけない自分自身の問題としてとらえるべきなのだ。
医学の進歩は想像以上に早く、今は自分の死のかたちを自分の意志で決めることができない時代なのだという。人工知能などの技術がこのまま発達すると、2045年には不死の技術はフィクションではなく現実のものになる。そんな「死なない時代」だからこそ、死にきちんと向き合って準備しておくことが本当に重要だ。死というテーマをきちんと考えることで、今を生きる自分の悩みを解決するヒントも得られる。死を考えれば考えるほど、いま生きている人生の価値をいっそう高められるのだという。「よい人生を願うならきちんと死の準備をしよう」という考え方は、多くの死に接してきた著者だからこその説得力がある。
作成:伊賀山直樹