●本書の概略
旅先で出会った男女の恋愛を通じて、結婚の意味や本当の愛について考えさせられる大人の恋愛小説。
苦しい日々から逃れるように訪れた旅行先イスタンブール。そこで出逢った作家のドヨンと国会議員のユチョルは、一週間だけ関係をもつ。幸せな一週間を過ごした二人は日常に戻るために連絡先も聞かずに別れた。数年後、偶然再会した二人はまた恋に堕ちる。結婚に失敗した経験があり、またお互いに子を持つ二人は慎重に愛を育んでいく。しかし、二人の交際はメディアに報じられて公になってしまった。そこにユチョルの前妻ジョンヒが現れる。ユチョルがイスタンブールに旅行に行く前から夫婦の関係は冷え切っていた。旅行から戻ったユチョルにすぐに離婚を切り出したのはジョンヒのほうだった。だが、元夫の幸せな姿を見て惨めな気持ちになったジョンヒは、二人の交際は不倫だと暴露する。ドヨンとユチョルは世間から非難されて……。
人を愛するとはどういうことなのか。束縛や嫉妬は愛なのか。愛に結婚は必要なのか。これは「愛とは何か」という永遠のテーマを描いた作品である。
●目次
もう思い出の人だった
それは常に何か新しい経験をさせる
置いてきた一週間がいきなり現れた
愛が傷ついた人は残酷だ
著者あとがき
●日本でのアピールポイント
大人の恋愛小説らしく大胆なセリフで二人の恋が始まったかと思えば、家で待っている彼女に早く会いたくて急いで帰宅したりもする、若い男女の恋愛のようなときめきも感じられる作品である。目が離せなくなるストーリーと魅力的な登場人物に心惹かれた。特に、二人の間でやりとりされるセリフの独特な軽快さが、読んでいてとても心地よい。
互いの傷を包むように愛する過程、そこで経験する苦難と克服を美しく描くこの作品は、大衆的なストーリーを通してさまざまな愛の形に深く迫る著者の真骨頂が発揮されている。束縛と自由を同時に欲する愛の葛藤や、元夫への嫉妬。幸せなはずの恋愛に伴う苦しみや寂しさは誰もが経験したことがあるだろう。著作に映画化された作品や邦訳された小説もあるキム・リョリョンは、今後も注目すべき作家の一人である。
作成:山口裕美子