産後ケアといえば韓国が有名ですが、日本経済新聞2016年6月14日付夕刊の記事「産後ケア、仕事復帰スムーズに」によれば、日本でも産後ケアの重要性が広く知られるようになってきたようです。産後ケアがどういうものなのか、韓国のTV局SBS放送のドキュメンタリー番組を書籍化した『韓国式の産後ケア100日の軌跡』を紹介します。
●概略
本書は、韓国のTV局SBSで放送されたドキュメンタリー『韓国式の産後ケア100日の軌跡』を書籍化したものである。製作チームは3ヶ月間、出産前後の産婦たちに密着取材し、西欧と南米など世界各国の産後ケア文化を比較・分析することで、長い間「実家の母」を中心とした個人的な領域と見なされてきた出産後の女性の体のケアに対し、科学的で客観的な情報を提供する。また、産婦なら誰でも心配している出産後の健康管理、運動法、食事法、そして産婦の最も大きな悩みでもある産後肥満の予防法とダイエット法に関する詳細な情報は、出産を準備しているママ予備軍にも非常に役立つ。また産婦の産後うつ病に関してのアドバイスも充実している。
●目次
プロローグ:産後100日、母親の一生の健康がこの時期に決まる。
Part1:産後ケア、なぜ必要なの
Chapter1. 真夏にババシャツを着る産婦たち
産後ケアだけはしっかりしないと
韓国の伝統的な産後ケア、どこまで従うか
Chapter2. 出産後、2人に1人は苦しむ
女性の体を理解する/ 「BESTな産後ケア」妊娠中の腰痛/
出産を準備する体の変化/苦しみと感激が共在する誕生の瞬間/
子どもが生まれたら母親の体は後回し
CHAPTER 3. 産後の悪寒は仮病だと?
体から冷たい風が/産後の悪寒、韓国女性だけの苦しみではない/
「専門家インタビュー」産後の悪寒について
Part2:突然やってくる産後の悪寒
CHAPTER 1.医師も直せない病気?
産後の悪寒の実体/「悪寒」に注目しろ/ 「BESTな産後ケア」基礎体力で産後の悪寒を予防する
CHAPTER 2. 西洋医学・漢方医学の「産後の悪寒」治療プロジェクト
21年間片方の足が冷える/本当の原因を探せ/不安、緊張そして自律神経系失調症/ 冷水に一度手を入れただけで産後の悪寒が来る?/「BESTな産後ケア」産後の悪寒が疑われる場合は
CHAPTER 3. 出産後遺症の主な敵、ストレス
子供を産んで本当にたくさん泣きました/理解し配慮してくれる家族がいるか/ 「BESTな産後ケア」2人目を産んでから産後ケアを丁寧にすれば良い? / 「専門家インタビュー」産後ケアをどのようにすべきか
PART 3:産後ケア、その誤解と真実
CHAPTER 1. 韓国にはあってアメリカにはない産後21日
地球の裏側の産後文化/ 40日間の産後ケア/人種が違えば回復速度も違う
CHAPTER 2. 産後ケアの心得、伝統か科学か
伝統的な心得1 冷気を避けろ-血液の循環が重要/わざと汗をかくのは禁物/保温で免疫力を強める
伝統的な心得2 産婦は何があっても横になる-出産後は女性ホルモンが急激に低下/骨盤臓器脱の危険/軽めの運動は回復への道/段階的に準備する家事と育児
伝統的な心得3出産後の入浴は禁止-環境の変化による再検討が必要
伝統的な心得4 滋養食でエネルギーを補う-ヨードの摂りすぎに注意/過剰な摂取は毒になる/「BESTな産後ケア」産後に最高の運動、ウォーキング /
「専門家インタビュー」出産後の健康管理はどのように?
PART 4:女性の一生を左右する産後100日の心得
CHAPTER 1. 出産後ママの体がおかしい
産婦を苦しめる症状
CHAPTER 2. 産後の体を管理する原則1. 2. 3
軽い運動をする/ 「BESTな産後ケア」本格的な産後の運動、いつ始めるか/寒くも暑くもないように保温する/「BESTな産後ケア」季節ごとの産後ケア法/無理せず日常に戻る
CHAPTER 3. 心の痛み、産後のうつ病
ストレスは産婦の心を病気にさせる/産婦の情緒が不安定になる訳/ 「BESTな産後ケア」産後のうつ病に対処する/パパにも産後のうつ病が
CHAPTER 4. 肥満を予防する産後の食事
産後の食事の原則/産後の栄養はまんべんなく、適度に/産婦の最大の悩み、産後の肥満/「BESTな産後ケア」産後のダイエットはこのように/妊娠中のダイエットは危険/産後の健康に効く基本的な運動/ 「専門家インタビュー」知れば知るほど混乱する?
PART 5:ママが幸せでこそ赤ん坊も元気に育つ
CHAPTER 1. 産婦は配慮されるべき存在
産婦を癒す毛布の効果/朝鮮王朝時代にも100日間の出産休暇/
CHAPTER 2. 私が選択したオーダーメードの産後ケア
どの産後調理院に行きますか? /実家の母の世話になる/わが家で気楽に、産婦用の家政婦さんサービス/「BESTな産後ケア」各国の産後ケア支援制度/妊娠・出産・育児の支援制度を正しく活用
BONUS PAGE 01:産褥期の身体的なトラブルと対処法
BONUS PAGE 02:母乳授乳で健康な産後ケア
●試訳
産後風(訳注:韓国では産後の様々な不調について「産後風」という病名がついている)で常に全身に痛みがあると訴えたとき、このようにアドバイスをする人がいる。「二人目を産んで、産後ケアをきちんとすればすっかり治る。二人目を産んでみなさい」
体のケアがうまくいかなくて病になったのに、もう一度出産して体のケアをきちんとすれば治るというのだ。著名な医師も治せない産後風だからと、耳を傾ける場合もある。しかし、これは根拠のない話だ。健康ではない状態で、また出産という大きな変化を体に及ぼせば、むしろ母親の体にとって大きな負担となるからだ。イ・ジンム教授は、2人目を産んで産後風を治療するというのは非常に危険な発想だと皮肉る。
「2人目を産んで産後ケアを徹底すれば、まれによくなることもあるかもしれません。でも、それはまぐれにすぎません。十中八九、さらに悪化していると考えるべきです」
出産を経験した女性の体は、どんなに丁寧にケアをしても妊娠前の状態に完璧に戻すことはできない。だから、体がよくない状態で妊娠・出産という大きな変化を経ると、元の状態を維持することすら容易ではない。女性が出産を経験する度に、子宮と下腹部はそれだけ弾力性を失い、体の状態も初産よりよくなることはないからだ。(86頁)
●日本でのアピールポイント
本書は韓国の産後調理院(産後ケア施設)でも広く推奨されている韓国の現代的な産後ケアを、科学的な根拠に基づいて紹介するとともに、韓国の伝統的な産後ケアや外国の産後ケアと比較するなど、妊娠・出産・産後に関する興味深い内容が満載。産婦だけでなく、妊娠・出産を考えているママ予備軍、パパやパパ予備軍にも、ぜひ読んでもらいたい本である。