読書への入口「ピョルマダン図書館」(韓国通信)

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 ソウル市江南区の「COEXモール」に昨年オープンした「별마당 도서관(ピョルマダン図書館)」(Starfield Library)をご紹介します。飲食店やファッション・雑貨店などが並ぶ大型モールの中央に位置し、1階と地下1階の吹き抜け構造になっています。その2フロアーにまたがる巨大な書架に、ぎっしりと本が並んでいる様子は迫力があります。所蔵する書籍は約5万冊。人文、経済、趣味、実用書などが分野別に配置され、貸出しはしていませんが、館内では誰でも自由に読むことができます。本の検索用PCや、iPadで読む電子書籍コーナー、外国書籍コーナー、約600種にも上る雑誌を集めた雑誌コーナーもあります。

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作家のトークショーや詩の朗読会、講演会、本と音楽を融合したブックコンサートなどのイベントも定期的に開かれています。11月30日午後7時からの特別講演には、『愛のあとにくるもの』(きむ・ふな訳、幻冬舎)、『私たちの幸せな時間』『楽しい私の家』『トガニ―幼き瞳の告発』(以上、蓮池薫訳、新潮社)などの邦訳本があり、今年8月に長編小説『해리(ヘリ)』を刊行したコン・ジヨンさんが、「사랑하라 더욱 사랑하라(愛せよ、もっと愛せよ)」というテーマで登壇する予定です。

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図書館の中央にそびえ立つブックツリーは文字どおり本を積み上げたもので、各側面が本の背表紙を活用した1枚の大きな絵となっています。12月を目前に控え、クリスマスにちなんだ絵もありました。

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本を読むだけでなく、待ち合わせや事務作業をする場所としても利用できるように、ソファやコンセントつきのテーブルもたっぷり配置されています。大勢の人が本を読んだり、パソコンに向かったり、談笑したりと思い思いに過ごしていました。

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ここは「図書館」ではありますが、実際には「多くの人が訪れるマルチ空間」を目指してデザインされたのだろうと感じました。ロータリーのように、図書館を中心にいろんな方向に通路がのびているので、モールを訪れた人々の動線が自然と図書館に向かうようになっています。また、巨大な書架やブックツリーなどインパクトのあるインテリアは、それだけで人を寄せ付けます。「インスタ映え」もするでしょう。一般的に図書館や書店に行くという行為は「本」が主な目的ですが、このピョルマダン図書館は何か他の目的で訪れ、そのついでに本を手に取るという人が多いのではないかと思います。実際、貸出しを行っていないので、1冊の本をその場で読みきる、あるいは何度か通って読む、というのはあまり現実的ではありません。ここで偶然手に取った本に興味を持ち、書店で買い求めて読み始める、ということもあるかもしれません。本を読むつもりはなかったけれど、待ち合わせの相手が来るまでの間にちょっと読んでみた、という人もいるでしょう。いわば本や読書への「入口」としての大きな役割を、ピョルマダン図書館が担っているのです。

韓国政府の文化体育観光部が昨年11~12月、全国の成人6,000人、小中高生3,329人を対象に実施した「2017年国民読書実態調査」によると、成人、小中高生ともに、年間の読書率と読書量が15年に比べ減少しています(*)。日本と同じく読書離れが指摘される韓国で、ピョルマダン図書館のような施設がわずかでもそれに歯止めをかける一助となることでしょう。(文・写真/牧野美加)

*年間読書率(1年間で一般図書1冊以上読んだ人の割合)

・紙の本:成人59.9%(15年比5.4%P減)、小中高生91.7%(同3.2%P減)

・電子本:成人62.3%(同5.1%P減)、小中高生93.2%(同2.5%P減)

年間読書量(1年間で教科書や参考書、雑誌、漫画などを除く一般図書を読んだ冊数)

・紙の本:成人8.3冊(15年比0.8冊減)、小67.1冊(同3.2冊減)、中18.5冊(同0.9冊減)、高8.8冊(同0.1冊減)