日本語で読める韓国の本

邦訳された韓国の小説や詩などの文学作品をはじめ、実用、絵本などさまざまな分野の邦訳本をご紹介します。

「上京」(ファン・ジョンウン短編集『誰でもない』)

柿の木の実が大分色づいてきました。イチョウの木の根元にも銀杏が転がっていて、こうした秋の光景を眺めると、ファン・ジョンウンさんの短編「上京」(『誰でもない』斎藤真理子訳 晶文社)にあった唐辛子摘みのシーンを思い出します。寂れた農村を訪れる、都会での生活に疲れた若者たち。都会の生活をやめて農村で生活するとしても、何も手にしていない自分はここでもやはりやっていけないだろうと彼らは考えます。出口の見えない重苦しさのある作品ですが、登場人物の心の機微、風景描写がとても丁寧で、自分もその場にいて同じ光景を見ているような気にな...

2018-10-10 (水)

最近の韓国・朝鮮・在日関係図書(1)

 既刊書のうち、目に触れる機会の少ない人文書を中心に、韓国・北朝鮮・在日関係の図書を紹介してみたい。 「目に触れる機会が少ない本」に限定するつもりだったが、最初から「良く見かける」中公新書になってしまった。木村光彦『日本統治下の朝鮮』は、日本統治下の統計とその後の実証研究によって、植民地時代にもかなりの経済の発展があり、各種の産業活動が活発だった事実を追究したものだ。著者は本書で植民地朝鮮における政治的、制度的支配の苛酷さを否認し、かつ植民地支配の合法化を主張してはいない。経済統計に表れた現象を拾い集め、それが韓国...

2018-09-16 (日)

2017年の日本における韓国文学

先週22日、週刊読書人に東北大学の佐野正人准教授による「2017年回顧 韓国文学」が掲載されました。「胸躍る豊作の一年」というタイトルのとおり、今年は分野も様々にたくさんの韓国文学作品が翻訳、刊行されました。メディアでも多く取り上げられ、韓国文学の大きな波を感じた年でした。これまで韓国文学に関心のなかった方々にも、この波は届いたのではないでしょうか。年明け1月には、晶文社の「韓国文学のオクリモノ」シリーズから『誰でもない』(ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳)が、3月には『あまりにも真昼の恋愛』(キム・グミ著、すん...

2017-12-29 (金)

光の帝国

 韓国での映画のヒットもあり、刊行前から話題になっている『殺人者の記憶法』(キム・ヨンハ著 吉川凪訳 クオン)が、いよいよ今月末には全国の書店で発売になります。 李箱文学賞や東仁文学賞など韓国の名だたる文学賞を受賞し、たくさんの秀作を発表しているキム・ヨンハですが、日本でも大ヒットした映画「私の頭の中の消しゴム」の脚本も手がけるなど様々な方面で多才ぶりを発揮しています。 これまでの邦訳作品に『阿娘(アラン)はなぜ』(森本由紀子訳 白帝社)や『光の帝国』(宋美沙訳 二見書房)があります。「自分の運命を知らないまま生き...

2017-10-17 (火)

少年が来る

  昨年、ハン・ガン作家の『菜食主義者』(きむ ふな訳 クオン)が「マン・ブッカー国際賞」を受賞したことはまだ記憶に新しいところですが、『少年が来る』(井手俊作 クオン)がイタリアの権威ある文学賞「マラパルテ賞」を受賞したという素晴らしいニュースが昨日飛び込んできました。『少年が来る』は5.18光州民主化運動を扱った小説で、命を奪われた少年、その家族、過去の活動で受けた暴力にいまなお悩まされ続ける人々など、章ごとに様々な立場の人物をオムニバス形式で描いています。国を越えて本書が高い評価を受けたのは、ハン・ガン作家が...

2017-09-16 (土)

リナ

 北朝鮮のことがニュースに取り上げられる度に、国民はどのような生活を強いられているのだろうかと気にかかります。昨年(平成28年)、日本経済新聞お正月特別版の文芸欄「世界の『今』に迫る10冊」で、『リナ』(姜英淑著 吉川凪訳 現代企画室)が取り上げられました。「『脱北』少女の苦難 韓国の作家が悪漢小説の体裁を取りながら鋭い筆致で描出する」作品と評されました。この『リナ』は、『文藝』2014年春号で、著者の姜英淑さんと翻訳家の鴻巣友季子さんとの対談でも取り上げられている作品です。この対談で姜英淑さんは「私は小説の中で『...

2017-09-14 (木)

アンニョン、エレナ

 福岡を拠点に様々な出版活動を行っている書肆侃侃房では、昨年から「韓国女性文学シリーズ」を刊行しています。その第1弾として刊行されたのが、『アンニョン、エレナ』(金仁淑著 和田景子訳)です。「アンニョン、エレナ」「息-悪夢」「ある晴れやかな日の午後に」など、家族間の軋轢によって生じた喪失と傷を巧に表現した作品7編が収められています。著者はあとがきで、「同じ家で一緒に住む木に対しても無頓着な私」と自分のことを語っていますが、本当はとても人間に興味があって、よく観察しているのではないかと思わせる作品集です。李在明の李完...

2017-09-01 (金)

ピンポン

 第1回日本翻訳大賞受賞作品『カステラ』(ヒョン・ジェフン訳 斎藤真理子訳 クレイン)の著者パク・ミンギュさんと翻訳家斎藤真理子さんコンビによる傑作長編小説『ピンポン』(白水社)。チスにいつも殴られ、いじめられている中学2年生の僕は「釘」とあだ名をつけられ、同じくいじめの対象になっている友人は「モアイ」と言われています。ピンポンのラリーをすることで、会話と思考を続けることを覚えていく釘とモアイを中心に、大多数の無意識の加害、集団心理の怖さを奇想天外な物語で語っていきます。読み終わってから、目次の前頁にある2行「安心...

2017-07-28 (金)

朝鮮王朝最後の皇女 徳恵翁主

 日韓のはざまで、時代と歴史とに翻弄されたひとりの女性の物語を紹介します。 李氏朝鮮第26代国王高宗の末娘として生まれた徳恵翁主は、学習院に留学したころから統合失調症を発病します。対馬の宗伯爵と結婚しましたが、娘の自殺、離婚、帰国と、苦難の生涯を余儀なくされました。そんな徳恵翁主の波乱の人生を描いたのが、『朝鮮王朝最後の皇女 徳恵翁主』(権丕暎著 斉藤勇夫訳 かんよう出版)です。 韓国では70万部の大ベストセラー、ソン・イェジン&パク・ヘイル主演で映画化もされました。日本でも今月24日から公開予定です(邦題「ラスト...

2017-06-10 (土)

日本経済新聞で韓国文学が紹介されました。

6月3日付け日本経済新聞朝刊に、韓国文学が大きく取り上げられています。『少年が来る』(ハン・ガン著 井手俊作訳 クオン)や『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ著 斎藤真理子訳 河出書房新社)、『冠村随筆』(李文求著 安宇植訳 インパクト出版会)など、1970年から80年代の激動の韓国を舞台にした小説の翻訳が相次いでいます。東京の韓国文化院で開催された『少年が来る』の読書会の模様とともに、小説によって韓国の歴史を学び取ろうとする人々の様子が記事になっています。作家の星野智幸さんの言葉、「声なき人の声を拾うの...

2017-06-03 (土)