存続の危機に瀕する釜山の古本屋街(韓国通信)

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 釜山市の人気観光地「国際市場」近くの中区宝水洞に、古本屋が軒を連ねる「宝水洞本屋通り」があります。教科書や参考書、辞書、児童書、漫画、小説、雑誌、芸術書、外国書籍、古書など幅広い種類の古本や新本を売り買いしていて、細い路地の両側にたくさんの本が積み上げられた様子は迫力があります。昔からの常連客のほか、国内外の観光客も訪れます。

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 本屋通りは、終戦を迎え日本人が引き揚げる際に残していった本を、空き地で売ったのが始まりと言われています。続いて1950年に朝鮮戦争が勃発し、釜山には多くの避難民が押し寄せました。中でも宝水洞周辺には臨時首都庁舎や大統領官邸、戦火を逃れ一時的に移転してきた各地の大学、学校の青空教室などが設けられ、多くの知識人や学生が集まっていました。しかし、戦時下で本の出版が難しかったため、勉強したくてもなかなか本が買えず、古本でも手に入ればありがたいという状況でした。一方で、生活のために蔵書を売る人々もいました。需要と供給がうまくかみ合って古本を売る露店や小屋が徐々に増え、現在のような本屋通りが形成されました。

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 60~70年代にはベビーブーマー(55~63年生まれ)が学生になったことから参考書や教科書の需要が急増し、古本屋は約70軒にまで増加。一帯は賑わいを見せました。経済発展とともに新本の需要も増え、新本を市価より安く販売する店も出てきました。

 日本の本もたくさん並んでいます。ダンボールに詰められた文庫本は1冊1,000ウォン、漫画は30巻まとめて5,000ウォンという店もありました。東日本大震災の現場を写真で記録した『쓰나미(ツナミ)』という本(文・写真リュ・スンイル)も見かけました。どの本も出版されてから幾人もの人の手を経て、ここにたどりついたのでしょう。

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 活況を呈していた宝水洞本屋通りですが、インターネット書店や大型中古書店の登場により、2000年代以降は次第に活気が失われつつあります。毎年秋に本屋通りあげてのイベントを行ったり、ブックカフェを開設する店があったりと、活性化に向けた取り組みも行われてはいますが、訪れる人の数は、以前このコーナーでもご紹介した大型中古書店のそれとは比較にならないほど少ないのが現状です。中でも観光客の場合、所狭しと本が積み上げられた風景をカメラに収めるだけで、実際に本を買っていく人はほとんどいないそうです。そうした状況で、収益の低下や経営者の高齢化、後継者不足、店の賃貸料の値上げなどにより廃業を余儀なくされるケースもあり、現在運営している店舗は35軒ほどになってしまいました。ソウルにある古本屋街も同じような悩みを抱えているのではないかと思います。変わりゆく時代の中で、歴史ある古書街を存続させるためには抜本的な対策を講じる必要があるでしょう。(文・写真/牧野美加)

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