昨年、猫のペット数が犬を初めて上回り、空前の猫コブームを迎えています。「ネコノミクス」という言葉も生まれているほどで、猫グッズの販売店や猫カフェなどもヒットしているようです。
韓国では猫というと不吉なイメージがあり人気のない動物でしたが、最近は猫をペットとする人が増えたり、猫カフェができたりと、韓国の猫事情も変わってきました。今回はそんな韓国の猫を愛する若い芸術家や彼らの作品についての本を紹介します。
●概略
猫への愛や魅力をこめた作品を作り続ける様々な分野の若い芸術家15人にインタビューを行った著者が、彼らが作り出す猫の作品、その製作過程、アトリエをたくさんの写真とともに紹介している。また、単なる芸術家とその作品の紹介だけにとどまらず、動物といっしょに暮らすことの意味や責任、動物愛護の重要性にも言及している。
●目次
まえがき
無口で心やさしい僕の「猫おじさん」/ 神秘的な猫王国の創造者/「人生のデザイン」を語る猫のお師匠様/猫の思い出を込めた私だけのアクセサリー/猫が撮る「カシャカシャおじさん」 /心のやすらぎを求めゆく「猫人間」 /夢みる猫の黄金の翼/魅惑的なメルヘンの世界/いたずら好きの猫とこびとの一番勝負/疎外された動物へのごあいさつ グッドモーニング!/なじみのない世界へ 夢見る春の猫/羊毛人形のようにあたたかな猫のママ/ありとあらゆるものを猫でデザインしてみたい/空飛ぶ猫とアーティストコミュニティー集団ボノボC/傷ついた記憶を胸に抱く木の人
登場する主な芸術家
ユ・ジェソンは、自分が飼っているチンチラ種の雄ジェイをモデルにしたクッションや、猫をデザインした文具を作っているが、どれもヴィンテージ調だ。日本の蚤の市で出会ったヴィンテージ人形に強く惹かれ、自分のデザインにも取り入れている。オンラインショップではヴィンテージ雑貨や古書も販売中。
マリーキャットの人気ぶりは、彼女の猫カレンダーや猫ダイアリーを毎年集めるマニアもいるほど。彼女が描く猫やその他の動物は、とても写実的で本当に生きているようだ。中世ヨーロッパの彩色やイスラム圏の美術に関心があり、現地でスケッチした風景やモチーフを作品に生かしているので、背景はとても異国的で神秘的だ。
銀粘土と七宝でアクセサリーをつくるシン・ユジン。自分で飼ったり病気の野良猫を引き取ったりして関わった猫は100匹を超える。猫の体の一部を七宝にデザインして幾何学的につなげたペンダントや指輪を制作している。猫ブローチは、花が咲いている木をデザインした台に飾ることができて、使っていないときはインテリアとして楽しめるようになっている。
小さな頃からよくものをなくす画家のシン・ソンミは、こびとがいたずらをしていると想像してきた。勉強した中国画の中に、人形のような小さなラバが描かれているのを見て、想像するだけだったこびとを自分の絵に生かすことにした。美しい韓国の伝統服を着た女性の絵に愛らしいこびとを登場させることで生き生きとした動きとストーリーが生まれ、優雅さだけでなく想像する楽しさも加わった(シン・ソンミさんの絵はがきは韓国専門ブックカフェ「チェッコリ」店頭でも発売中)。
アン・ミソンは紙ではなく絹布に猫を描く。窓の外を眺めている猫を見て、家で飼われている猫は幸せなのだろうか、何を考えているのだろうか、と気にかかる。アン・ミソンの絵にはそんな思いが込められている。木の枠に絹布をぴんと張り、そこに植物を刺繍して重ねて猫を描いていく。細密画として描かれた猫と華麗な刺繍が融合したスタイルは、彼女だけのものである。
●試訳
本書には大きく3つのテーマがあります。まず1つめが「猫という動物が持っている芸術的な魅力」についてです。ヴィンテージ人形や猫のイラストがお似合いのクッションを作るイラストレーターのユ・ジェソン、石の猫のお師匠様の口を借りて人生の真を伝えるデザイナーのパク・ファルミン、幻想と現実が交錯する猫の国を描くイラストレーターのマリーキャット、(~中略~)16年間いっしょに暮らしてきた猫の死による喪失感を克服していく彫刻家のホン・ギョンニムまで-この世に存在する猫の毛の様々な色彩と模様のようです。芸術家たちが魅了された猫の姿もさまざまです。彼らの作品から猫の隠れた魅力が伝わればいいなと思います。
2つめとして、若い芸術家が製作している多彩なアトリエを見せてほしいと思いました。お金が無ければ無いなりに、賃料の安い地域を探して自ら創造村を興した芸術家、お気に入りの雑貨があふれているお店の片側をアトリエにした芸術家、教室とアトリエをいっしょに運営する芸術家、気の合う人と交流できるカフェをオープンなアトリエとした芸術家、街をスタジオとして作品活動をする芸術家……。そうやって自分だけのアトリエを作れる方法があることを知りました。(4頁、5頁)
●日本でのアピールポイント
愛猫家が多く、猫をモチーフにした雑貨がよく売れる日本とは異なり、韓国では猫というと不吉なイメージがあり人気のない動物だった。しかし、最近は猫をペットとする人が増えたり、猫カフェができたりと、韓国の猫事情も変わってきた。そんな韓国の若い芸術家が生み出す猫の作品は、韓国らしい華やかな色をバックにしたものや朝鮮民画風のものなど日本にはないテイストで、日本の愛猫家にも興味を持ってもらえるだろう。また、猫に興味がなくても、韓国の若い素晴らしい芸術家とその作品を知ることのできるアート本でもある。